EVERYDAY
NOTES - archive - 2009 may
5月31日(日)
ゆっくり日本から合流したみんなとホテルで朝食を食す。寝起きのオレンジジュースが僕は大好きで、何より旅をしているときの最高の贅沢の一つがこの朝のスローな時間。気分も良く、電車でベネチアに向かう。
何度もこの街を訪れているが、水と共存するこの不思議な街は、いつも自然体で我々を迎え入れてくれる。まずは、サン・マルコ広場に行ってベネチアに来たことを実感する。10年前と同じ場所でスケッチをする。昔は丹念にペンだけで3時間くらいかけて描いたスケッチに対して、今回はディテールを放棄して半時間で線に頼らないで着色もすることでベネチアの空間らしきを捉える努力をする。雨が降り出し、また新しい街の表情を見ることができた。
その後は、わざとベネチアの小道に迷い込む。次に何が見えてくるか分からないこのドキドキした散歩こそベネチアの醍醐味であり、不思議なドアベルや無造作に干された洗濯物が色とりどりのファサードと共にその姿をあらわにする。カメラ片手に靴底が磨り減るのを感じながら歩きまくる。ポルチーニのパスタは最高に美味。
5月30日(土)
今日もポルタ・ロマーナから散歩は始まり、サン・ロレンツォ教会周辺を目的もなく歩く。なかなか迷子になることの少なくなった年齢ではあるが、こうして見慣れない風景の中をさ迷うのも旅の醍醐味。エスプレッソとコルネット。
午後、正面ファサードを綺麗にしたばかりのドゥオーモは、広く輝いていたがもちろんぐるっと一周するとすすけて黒いところもまだ沢山あってそこに風情を感じる。石の文化の特徴こそこの清掃による再生性にあるのだろう。ここ数回は、いつもグレーの建設布で覆われていた姿ばかりだったので懐かしくなる。なぜか、京都の龍安寺が石庭の壁の修復をしていたときのことを思い出す。
夜、ポルタ・ベネチアで日本から来た大学時代の友人たちと合流し、大人数でレストランで食事。いつも東京で顔をあわせている連中とこうしてミラノのレストランで会うと何だか不思議な気持ちになり、いつになく盛り上がる。ステーキもワインも美味しい最高の夜となった。いよいよこのイタリア旅行も後半戦。最高の思い出をこうして最高の友人たちと共有できる幸せを感じてミラノの長い夜は続いてゆく。
5月29日(金)
午前中、ポルタ・ロマーナ周辺を散策。ミラノには何度か来ているので断片的な記憶があり、こうして街を歩いているといろんな点が少しずつ線になっていくのを感じる。エスプレッソとパニーニは安くて美味い。
昼、中央駅に行くも毎時あると思っていたベルガモ行きの電車が二時間に一本しかなくて、初歩的なミスで小野隆生さんとの待ち合わせに遅れてしまうという失態。けれどもなんとか駅でお会いすることができて、車でベルガモの街が一望できるところまで連れて行ってもらい古いベルガモの街を散策する。城壁に囲まれた街の中は、直線的な道はなく、すべてが有機的に湾曲してゆるやかに繋がっている。どこかシエナの街を思わせる雰囲気であった。足元には実に表情豊かな石畳に、壁はさまざまな石やレンガで綺麗に連続している。道の水平、垂直のプロポーションがつねに変化することでいきいきとしたシークエンスが生まれる。ベルガモのドゥオーここを世界一の広場であると感動した話やベネチアのレリーフがあることなどを教えてもらう。ベルガモ周辺の山々が遠景に見える中庭のあるカフェでお茶をする。
31年前にイタリアに渡り、ローマやウンブリア地方、そして9年前からここベルガモに住み始めた話などから始まって、美術史や建築観、イタリアの歴史的な多民族性などについて話を伺う。ピカソやベーコンに対してボッティチェリやカラヴァッジョを比較して美術の深みについて面白い話を沢山聞く。世界で唯一イタリアで「修復」ということが一つのプロフェッションとしてムッソリーニの時代に政府の文化庁と連結した学校ができ、テオリーが築き上げられたことを知る。多岐に渡る話は徐々に音楽に話題が移り、小野さんがチェロを演奏することを知る。その経緯を丁寧に教えていただき、クラシック音楽についても会話は盛り上がる。三時間近くに渡って話は続き、テーブルに落ちていた夏のイタリアの影もすっかり移動し、とても贅沢な体験であった。もちろん録音していないが、作品を通して知った画家の小野さんとこうしてイタリアで直接話ができたのは貴重で、多くの刺激を受けた。プライベートな授業ではないが、良質な宿題を沢山頂いた気分になり、こうした時間を共有できたことを感謝する。それから小野さんのチェロをつくった楽器職人の工房に急遽連れて行っていただいて、製作中のバイオリンを二器みせてもらう。イタリアのオーダーメイド式の楽器の作り方について話を聞き、材料となる木々の乾燥に対する知恵や手法を見せてもらう。残念ながらベルガモから離れた村にある小野さんのアトリエには行かれなかったが、展覧会のオープニングで一度お会いしただけの僕が勝手に手紙を書いてこうして来たにもかかわらず、相手して頂いて喜びの気持ち一杯でミラノに電車で戻る。
夜は、シシリア地方から来たという友人たちと合流し、ペンネを食してワインをたっぷり飲む。話題は、日本文化やマルディーニ、家具デザイン、村上春樹、パレルモの町などこれまた大いに盛り上がる。
5月28日(木)
午前中、ゆっくりしてまた近所のバールでエスプレッソとクロワッサン。Sからイタリアン・マフィアの興味深い話を聞く。ランチは、チーズとトマトのペンネ。昨日、本屋でみつけたイタリア語に訳された『世界の終わり・ハードボイルドワンダーランド』(著:村上春樹)をプレゼントする。子育てで忙しくてなかなか読書の時間もないとのことらしいが、僕の好きな小説だと言ったら喜んでくれた。バス停まで送ってもらい、又の再会を約束する。Sが「チビたちが五人(あと二人)になるまで頑張るわ」と笑顔で言っていたのが何より頼もしかった。
テルミニ駅に到着。丁度10年前、ここでジプシーたちにパスポートを取られたのを思い出す。当時は、初めての一人旅でパルテノン神殿からプラド美術館までを五週間かけてアテネからマドリードまでを旅した。その旅の中ごろ、ウィーンでクリムトに心奪われ、シーレを発見し、ベネチアを歩き回った次の目的地がローマであった。世紀末に向けて工事中だった駅に朝方夜行列車で到着し、テクテクと地下鉄に向かって歩いていた。その時、どこからともなくジプシー家族に囲まれて一瞬にしてウェスト・ポーチから二万円の挟まれたパスポートは姿を消した。しかし、パニックして駅長室で肩を落としていると警官が僕のパスポートを手に戻ってきた。聞けば、ジプシーの女から拾ったと言って渡されたとのこと。結局は、僕が円をリラに両替しようとしてパスポートに挟んでいた現金が不幸中の幸いで、女はそのキャッシュで満足して警官にパスポートを拾ったといって返してくれたのである。この時の二万円がその後の一人旅の大きな教訓になっていることを思えば安い授業料だったのかもしれない。事件現場に10年ぶりに足を運ぶ。しかし、この事件のせいでその夏、僕はローマに留まることなく気分を新たにミラノ行きの電車に乗ったのである。パンテオンもコロッセオも何も見ないで。でも、人生どこで誰と会うか分からないもの。その後、ビルバオからバルセロナに向かう電車の中で陽気で元気なローマっ子のSと出会った。スケッチブックを見せながら彼女に旅の説明をしていたら、絶対ローマに来てほしいといわれた。社交辞令と思っていたが翌年の夏、ローマへの旅を実行し、Sは笑顔で僕を迎えてくれて、友人や家族を紹介してくれた。僕のスケッチブックをまるで自分で描いたかのごとくみんなに説明していたのを今でも鮮明に覚えている。当時のボーイフレンドと今では三人の子供を授かり立派に育てている自慢の友人だ。こうした人間模様があるからこそ、旅はやめられない。
イタリアののどかな風景を楽しみながら三時間半でミラノに到着。緩やかな起伏のある大地にオレンジ色の屋根と古いお城や教会が沢山見えてスローな時間を感じる。『ロハスの思考』(福岡伸一、ソトコト新書、2006)を読み終わる。少し前に読んだ『生物と無生物のあいだ』に比べたら切れ味が悪かったけど、後半に収録された坂本龍一とヨーヨーマとの対談が印象に残る。「エッジ・エフェクト」にはとても共感する。すかさずiPODから坂本龍一の音楽を選んで聴いていたら、車窓から見えるイタリアの風景と聴覚と視覚の不思議なハーモニーを奏でていた。
ミラノでは、ギリシャ人のAと二年ぶりに再会を果たす。ACミランの熱狂的なサポーターで昨日の試合についてあれやこれや話しながら運河沿いを散歩し隠れ家的な心地よいレストランで食事を楽しむ。こうしてローカルな生活者を訪ねることで貴重な体験を共有し、俗な言い方になってしまうが「自分の価値尺度」らしきを刺激されるのを感じる。「プロジェクト30」の「しおり」も手渡される。これまた今までにない点画の手法で丹念に塗ってくれていて、プロジェクトのことをすごく喜んでくれていたのでこっちも笑顔が絶えない夜となった。
しかし、こうして旅に出ると「everyday notes」の駄文も自ずと長くなるのは、やはり旅を通して思考が刺激されて記録したいものが増えるからだろう。このある種の「旅の感覚」は日常を過ごしている東京でも維持することが出来たらよいのだが、凡人にはなかなかそうもいかない。もっと努力せねば。帰国したら何か具体策を考えてみたい。
5月27日(水)
午前中、ゆっくり近所を散歩。Sとマーケットに行ったりして過ごす。テラスの日陰で濃い目のエスプレッソを飲みながら読書の至福の時間。ローマは今日も30度を越す真夏日だが、日本の気候と違って湿度が低い分だけ過ごしやすい。Sからキリスト教について色々と話を聞き、少し前に読んだエイリッヒ・フロムの『愛するということ』との共通点について話し合う。ランチは、サラダと生ハムメロン。
午後、子供たちを幼稚園に迎えに行って、彼女たちと分からないながらにイタリア語でコミュニケーションを図る。すごく正直な子供たちに日本語を教えたりして楽しい時間を過ごす。
夜、スタジオ・オリンピコ。チャンピオンズリーグ決勝戦。高校時代にマンチェスター・ユナイテッドの虜になり、バスケット少年からサッカー少年になった思い出のチーム。思えば、カントナ率いるマンチェスター対ロマーリオ率いるバルセロナの試合を1995年にカンプ・ノウまで観に行ったのを思い出す。役者が出揃った世界最高峰の戦いを90分間堪能する。6万人の観客が大声を張り上げて一つのサッカーボールを目で追いかける。ピッチに立つ22人の選手の中で体格的に一番小さい、空色のスパイクを履いたメッシが最も輝いていた。現代サッカーを引っ張る頂点に限りなく近い選手であることを彼は世界に証明した。アルゼンチンの天才をイニエスタとシャビが献身的なプレーでサポートし、コンパクトでスピーディーな攻撃的現代サッカーを展開。対するイングランド・チャンピオンのマンチェスターは、ロナウドとルーニーが孤立し、チームとしてうまく機能しないまま大会初の連覇は水の泡となった。2-0のスコア以上に両チームのプレーには差があったように観えた。テベスやベルバトフといった超一流プレーヤーがサブにいるマンチェスターをしてもメッシの前では、封じ込められてしまった。しかし、鳥肌ものの90分間。サッカーというスポーツがまぎれもなく人を動かす立派な文化であることをまたしても体感した一日となった。3年前のパリでロナウジーニョ率いるバルサの優勝を観た試合よりも記憶に残る最高の一戦であった。
試合後、S夫妻とバーで一杯飲みながら語り合う最高の夜の締めくくり。
5月26日(火)
朝飯も早々に街に繰り出す。スケッチブックに水彩セットも持ち歩くとなかなかの荷物で大変だ。ゲーテのイタリア紀行のごとく、ポポロ広場から散歩をスタート。しかしじりじりと太陽の存在感に圧倒され、日陰に隠れるようにして歩くも30度を超えたローマは強烈に暑い。石畳の熱に溶けてしまいそうになるのを何度となく冷たいカフェ・フレードで回復する。廻りまわって、スペイン階段でスケッチを描く。旅先で水彩を持ってのスケッチはなかなか大変だったが、ローマには街のあちこちに噴水があり、水の調達には苦労せず。半時間ほどで仕上げる。イギリスよりもスペインのバルセロナサポーターの方が元気で街中を歌って明日の決戦に備えて盛り上がっている。
夕方、子供たちを迎えに行ったSと合流し、三人の子供たちとヴィラ・アダに行く。緑の豊富な公園でお散歩。4歳と2歳の娘たちは、僕に容赦なくイタリア語で話しかけてくる。子供たちの好奇心旺盛さは万国共通で色んな遊びを発見しては楽しんでいる。
夜、S夫妻と素敵なイタリアンレストランで食事。厳選された素材をシンプルに料理して、とても美味しかった。ヴェローナ地方の二度熟成させたワインも食後のグラッパも美味。丁度知り合って10年になるが、会うのはまだ4度目くらいなのを驚く。子供用色鉛筆で塗られた「プロジェクト30」の「しおり」をもらう。コピーしたものを子供たちにも塗って遊んでもらったとのこと。累計56枚。
ベルガモにいる画家の小野隆生さんと連絡が取れて、金曜日にアトリエを訪問させてもらうことになって喜ぶ。昨年の池田20世紀美術館での展覧会の際に「ときの忘れもの」オーナーの綿貫さんの厚意で紹介していただき、短い時間であったが会話を通して多くの刺激をもらい、何よりその作品に深く感動した。
5月25日(月)
成田空港には、マスク姿の人が目立つ。顔が見えないため何だか距離感が掴みにくい。
ウィーン、チューリッヒと乗り継いで18時間後ローマに入る。徹夜で向かえたフライトなので良く寝られた。読書を少々とクリント・イーストウッド監督作品を1本見る。久しぶりに多くのドイツ語が耳に入る。スイス人のドイツ語の強烈な訛りにも懐かしさを感じる。窓から見えたヨーロッパの大地、特に田園風景は実に見事なモザイク模様、イタリアの北部に差し掛かると壮大なアルプス山脈が現れる。いくら見ていても飽きない。
ローマのフミチーノ空港から電車に乗って市内へ行くと駅でSが迎えに来てくれていた。4年ぶりの再会を喜ぶ。思えばバックパッカーで一人旅をしていた頃、バルセロナに向かう夜行列車でSと知り合ってからもう10年が経つ。出逢ったその翌年にローマで再会し、彼女のスクーターで二人乗りをして街中を案内してもらったのを今でも鮮明に覚えている。今では、当時紹介してもらった彼氏と結婚し、3児の立派な母である。近況報告を含めて大いに盛り上がる。リビングには、結婚祝いにプレゼントした絵が掛けられていた。
日本から西に向かって飛び、時間に逆行したので、すごく長い一日になった。
5月24日(日)
午前中、メールなどの雑務。昼から天気が少し崩れて久しぶりの雨。グルスキーのドローイング、完成は近いものの旅の前に終わらせることができず。
世界遺産『ベルリン集合住宅群』を見る。ブルーノ・タウトの集合住宅は、僕もベルリンに住んでいてよく観て歩いたので懐かしく思いながら番組を楽しむ。初期の集合住宅は竣工からもう一世紀が経過しているが実に理想的な時間との付き合い方をしていて魅力的。それは、やはり生活者が愛着をもって空間を大切に熟成させているからであろう。それこそが名作を生む原動力。
夜、部屋の掃除をして寝ないで旅の準備をする。スケッチブックとカメラを準備して、親友の結婚式に出るのでスーツも持っていく。荷物を最小限にコンパクトにまとめて、空が明るくなってきた頃にタミフルも持参して家を出る。10日間ほどのイタリア旅行。パソコンも持っていくのでメールなどの連絡は問題ないはず。
5月23日(土)
鋭い太陽の光で目が覚める。またしても外は夏日。午前中、ゆっくり読書。昼から住宅Kのスケッチを進める。
両国に行って友人の森尾舞が出演する舞台『病気』(作:別役実)を観る。すごくテンポ良く会話のキャッチボールが進み、独特のユーモアを取り入れた面白い喜劇だった。久しぶりに芝居を楽しませてもらった。楽屋で挨拶し、彼女の職場の人たちとご一緒して美味しいそばを食す。続けて帝国ホテルのバーでお酒を飲む。フランク・ロイド・ライトの空間にてベルリンの話など大いに盛り上がる。最近、こうした年齢が僕の倍もある大先輩の方々と話す機会が多く、沢山のことを教えて頂く貴重な時間を過ごす。
夜、気分も良くグルスキーのドローイングを描き進める。BGMは、アルゲリッチのピアノをループして聴いていたら深夜になっていた。
今日も「プロジェクト30」の「しおり」が届く。高校時代の恩師で美術の先生から油彩できめ細かく塗り込まれた「しおり」が届く。先生がどのように塗るかとすごく楽しみにしていたので、カラフルに仕上がった素敵な「しおり」にしばし見入ってしまう。累計55枚。
5月22日(金)
午前中、コンペを仕上げて提出。続けて住宅Kについてあれこれスケッチ。午後、メールなどの雑務をして、打ち合わせを一本。住宅Kのエスキースを続けて、本を拾い読みする。窓が揺れるくらいの強い風が一日中吹き荒れていた。グルスキーのドローイングを進めるも、今日はペンがうまく転がってくれないので、すぐに止める。
夜、ベルリン時代の友人らと会い、これまたマニキュアで鮮やかに塗られた「しおり」をもらう。「プロジェクト30」もいよいよ沢山のピースが並んで揃ってきて、もうすぐ折り返し。累計54枚
5月21日(木)
午前中、グルスキーのドローイングを描く。もうすぐ終盤戦。この調子で仕上げたい。午後、コンペのプレゼンテーションを進める。こっちももうすぐ一段落。作業に没頭していたら夜になっていた。
恵比寿で写真家の友人と会う。ベルリンで知り合って、彼女の作品に参加させてもらったのを機にいつも写真の話を中心に良い刺激をもらう。久方ぶりだったこともあって、近況報告からソウルでの展示などについて面白い話を聞く。新作についても話してくれて、展示を見たくなった。今僕が描いている写真家のドローイング・シリーズについても意見を聞いたので参考になった。
深夜、続けてコンペのブラッシュ・アップ作業。昨日見えていた細長い三日月が今日はすっかり姿を消していた。
5月20日(水)
起きたら筋肉痛。天気もよく気持ちよいので掃除と洗濯。午前中は、コンペの作業を進める。昼、クライアント候補の友人と会って、新しい住宅についてあれこれと話をする。二児の母となり、家について夢を膨らませているようで一緒に進められるようにしたい。続けて、国際展示場・ビックサイトへ。リフォーム展に友人と行くも殺伐としていて、改修技術もなんとなく掃除、メンテナンスなどが中心で画期的なものは残念ながら見当たらなかった。
夜、メールなどの雑務。また銅版画についての問い合わせメールが届く。しっかりと製作を続けて展覧会ができるようにして、実際に作品を見てもらう機会をつくりたい。頑張らねば。それからまたコンペの作業を深夜まで集中してやる。
今日は、マルセーユから「プロジェクト30」の「しおり」が1通届く。彼は、フランス人映像作家でなかなかシュールな映像をつくっている友人だが、かなり忠実に僕の塗った「しおり」に似た配色で仕上げてくれた。国籍は違えど、やはり同年代の彼とはいつか一緒に何かやってみたい。累計53枚。
5月19日(火)
つい先日大坊珈琲店でお会いしたNさんのお誘いで三浦半島までヨットを乗りに行く。人生初の体験。年齢も大きく離れた男性四人で31フィートのヨットに乗る。出発前は、雲の間から頭を覗かせる富士山の幻想的美しさに見入る余裕があったが、3時間強のセーリングは、全くの新境地で終盤は、グロッキーになってしまう。しかし、それでも百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、ヨット体験を通して海に対する認識が大きく変わった。何より水という液体の固まりであるはずの海がまるで別のもののように重く見えたことに驚いた。水全体が波打つのと同時に水面に直接的な風による細かい波が重なり、その複雑な表情はどこか砂漠の砂のもつ表情に類似していた。その恐ろしいまでの水をヨットは船体を斜めにし、切るようにして鋭く前へ進んでいく。自分の体は波と同じ周波で反復上下運動し、海とのとても不思議な一体感に包まれる。特にエンジンを切ってマストを張り、風の力のみで静かにゆっくりと進んでいる時は、水面との距離感が近く、今までにない新しい感覚を覚えた。僕は、長い間ヨットの最先端という特等席に座らせてもらった。その間、緊張しっ放しの体中の筋肉とは裏腹に、頭の中ではル・コルビュジェが地中海でその生涯を閉じたことや3年ほど前にポルトガルのドウロ川をモーターボートで下った時のことなどについて考えていた。セーリングの最重要アイテムである紐を丁寧に結ぶのを見ながら、ベネチアの水上バスの各ストップに止まる際の結び方と同じであることに妙に納得する。
陸に上がると体は長らく浮遊した感覚を楽しみながらも、徐々に住み慣れた重力との調和をみつけていく。その後、ハーバーにあるチャーチルなどの英国貴族が乗った「シナーラ」という船を船長に開けてもらい見学する。96フィートある「シナーラ」は迫力満点で、ガラスの小口をうまく利用した電気フリーなシンプルな照明が深く印象に残る。何より、船の木部の年齢の重ね方が実に豊かで美しかった。それから三崎のまぐろを食して体力を回復する。
帰路に着く車内でも、Nさんと海の感想から沢山の話をすることができ、えらく充実した一日であった。帰宅後、倒れるようにして寝る。何もしないで乗っていただけなのに体はすっかり疲れきっていた。
ポストには今日も二通の「プロジェクト30」の「しおり」があった。ドレスデン大学で教えている友人建築家のJからは今までにない着色に加え、長方形という枠を切り抜くという発想を実行して、オリジナリティーにあふれる「しおり」が届き、学生時代の友人は、山などを描き足してその「しおり」だけでしっかりとドローイングが完結しているかのごとく着色してくれた。累計52枚。
5月18日(月)
午前中、メールなどの雑務と読書。午後、ドローイングを進める。尾山台村増築計画の打ち合わせ。クライアントさんと会って久しぶりに色々と話し込む。これからの展開をしっかりと継続してやっていきたい。
夕方、事務所に友人が来る。わいわいと打ち合わせ。「プロジェクト30」の「しおり」を手渡しで頂く。更には、ポストにイタリアにいる小野隆生さんからも返信があり喜ぶ。淡い青色一色で塗られていて感動する。力強い文字で素敵なお手紙も頂いて、月末にローマから電話することを約束する。ベルガモのアトリエ訪問で再会することができたら、あの素晴らしい絵画たちの生まれる場所を想像するだけで至福の時間であるとわくわくする。累計50枚。
5月17日(日)
午前中、ゆっくりと読書。いろいろと雑読して過ごす。
今日も一日中強い風が吹き続ける。雲の位置も心なしかいつもより低く動きが早い。
『バーバー吉野』(監督:荻上直子、2003)をDVDで観る。カウリスマキ好きとしては、何となく作品に流れる空気感がこの二人は似ているものを感じる。初の長編監督作品らしいが、もたいまさこがさすがの存在感で子供の世界を通して少しずつ大人になることを考える和製「スタンド・バイ・ミー」といったところか。驚いたのが、スクリーンになまこ壁のある風景が連続し、背景には石山研究室が松崎で設計した橋が何度が写っていた。
『情熱大陸』で映画監督の紀里谷和明を見る。すごくトゲのある人でクリエイターとしてのエネルギーに驚く。ロスの自宅で十穀米を食べていたのが印象的だった。
5月16日(土)
午前中、ふと本棚にある『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』(村上春樹、新潮文庫、1999)が目に留まり、再読する。これを始めて読んだ時は大学生で、ウィスキーを口にしたこともなく、いつかは僕もスコットランドとアイルランドにこんな風に旅してみたいと思っていた。ウィスキーを少しばかり飲むようになった今でもまだウィスキー巡礼の旅は実現してないが、この本を読んでまた同じように旅したくなった。ちなみに「うまい酒は旅をしない」らしい。
午後、住宅Kのエスキース。それからこのサイトの銅版画を見てぜひ実物をみたいといってくれた友人夫妻に銅版画のフォリオを持って会いに行く。実物を見ていろいろと反応を知るのは製作する上で一番の刺激になるので大いに盛り上がる。夕方、先日大坊珈琲で知り合ったNさんに会いに行く。まだ知り合ってお会いするのは二回目だが、全くそう感じない何かがありこれまた大いに盛り上がる。素敵なご家族にも紹介していただいて一緒に食事をし、あれこれと話し込む。今朝の村上春樹の本も影響し、アイリッシュ・ウィスキーのジェームソンをストレートで飲みながら面白い話を沢山聞く。人生の大先輩だが、とても楽しく気持ちよく時間を共有できるのは貴重で嬉しい。
深夜、気分も乗ってきたのでグルスキーのドローイングを更に描く。高揚した時こそ手が動きたくなるらしい。BGMは、スタン・ゲッツにした。こうして不思議とシンクロするものを大切にしたい。そういえば、帰宅途中、山手線の線路を何だか引き直している工事が行われており、ビンビンと耳にしたことのない音が流れていてしばし足が止まる。
5月15日(金)
午前中、目黒川沿いをゆっくりランニング。深夜との違いは、太陽の気持ちよさとすれ違うランナーたちの年齢層。いずれにしろ、ランニングをもっと習慣化しなくては。メールなどの雑務をし、新しく設計する住宅Kについて考える。
午後もコンペと住宅Kのエスキース。東京の雲を見ながら、ベルリンの雲が時に異常なスピードで進んでいたことをふと思い出す。夕方、打ち合わせを一本して、夜はIT社長らと久しぶりに会う。驚いたのが、彼に「プロジェクト30」の趣旨が正確に伝わっていなかったこと。手紙をうまく理解していなくて「しおり」を二枚とも普通に使っていて塗って返信するというコンセプトが伝わっていなかったことを知る。再度、説明して近く「しおり」を塗ってもらうことになった。
今日で丁度30歳になって一ヶ月。「プロジェクト30」のおかげで今までにない楽しい祝い方ができているせいか、継続的に未だ誕生日気分である。今日はイタリアにいるグライター先生より緑と赤の二色のみを使ったイタリアらしい「しおり」と、スウェーデンからは、イラストレーターの友人からカラフルでかっこいい「しおり」が届く。累計48枚。本当に有難いばかりである。
5月14日(木)
午前中、グルスキーのドローイング。大分完成像が見えてきた。やはり一冊の良質な写真集に込められた写真家のメッセージというのは本当に強度のあるもので、それを僕なりの新しい発見としてドローイングで表現してみたい。
午後、続けてコンペ作業。こっちもやっと何かが見えてきた部分もあり調子よく進める。その後、いつも行くシャンデリアが素敵な近所のカフェで銅版画のアクアチント作業を工房でするためのスケッチをあれこれとする。いつもは、本を持ってソファ席に座るが、今日はテーブル席に座ったら、木目の表情がすごく気になった。
夕方、白井版画工房にてアクアチント作業。絶対的な無の窓を今回の小作は試みてみたのでいつもより複雑な工程になり、試し刷りまでいかなかった。次回、刷るのを楽しみにしたい。夜、難波先生の界工作舎のスタッフになった岩元くんと会う。ザウアブルッフ・ハットンでインターンをした彼と再会してゆっくり話したのは久しぶりで最近の仕事やこれからのことについて盛り上がる。ソウルのOMAによる『トランスフォーマー』にすごく行きたくなった。相変わらずのワーカホリックであったが、元気そうで何より。
深夜、ミラノで来月結婚式をあげる親友と打ち合わせ。最近の激務で疲労困ぱいと言ったところ。忙しい中、時間をつくってくれて色々と話し込む。タクシーしか走っていない深夜の東京の道の風は強かった。
今日は、石川県に住む来月82歳になるおばあちゃんから「プロジェクト30」の「しおり」が届く。想像を超えて丹念に沢山の色を小さな「しおり」上に展開してくれて、何十年かぶりの色塗りを大いに楽しんでくれたとの優しい手紙も同封されていた。いささか大げさではあるが、このモザイク上のドローイングが示すものこそ今の自分のライフスタイルではないかと思い、みんなの気持ちを大事にこれからもしっかりと精進したい。累計46枚。
5月13日(水)
午前中、やはりグルスキーのドローイングを進める。少し大胆な構図で線を入れてみた。深夜にドローイングや版画を彫ることが多いけど、午前中の光っていうのもなかなか良い。
午後は、終日コンペの作業に今、進めているドローイングの原稿スケッチ。
夜、ロシアから電話。サンクトペテルブルクの大学で博士課程にいるドイツ人のTから「プロジェクト30」についての感謝の連絡。先週、ドイツの実家に帰って受け取ったとのこと。6年前のローマのワークショップで知り合って以来の友人。ロシアの電波が悪く、聞き取りにくい電話ではあったが、お互いの近況を話す。今年の秋にはバレーダンサーの奥さんと五年ぶりの東京に遊びに来たいとのこと。僕もいつかロシアに旅することを約束する。
ポストにはベルリンの友人とクライアントの友人から「プロジェクト30」の「しおり」が届く。ベルリンの情報満載の彼のブログ『ベルリン中央駅』にもこのプロジェクトを紹介してもらった。もう一人の友人は、ベルリンの友人を通して知り合い、蒔絵をやっているので、ワンポイントに金箔がありセンス良く配色された力作である。累計46枚。
5月12日(火)
午前中、グルスキーのドローイングを展開する。少しずつではあるが、それらしき何かがしっかりと表現されていることを実感する。完成まではまだ時間がかかりそうだが、しっかりと進めたい。
午後、コンペの作業。同時進行していることもあり、手探りな部分も含めてやっている。途中、多木さんの本をまた拾い読み。
夜、僕のサイトを見つけて連絡してきた高校時代の後輩と会う。パイロットになっていた彼は、10年ぶりの再会だが全く変わらず大いに盛り上がる。当時一緒にバンドをやっていて、僕は英語の発音のみを武器にボーカルをやらせてもらっていたが、彼はベースを弾いて確実なビートを刻んでいた。一瞬にしてタイムトリップし、懐かしい思い出話からパイロットの仕事について色々と教えてもらう。こっちも大学でのことやベルリンでの生活、建築について熱く語る。素敵な奥さんと9ヶ月の愛娘の写真まで見せてもらった。近く、当時のバンドメンバーを集めてみたい。あとは、ドラマーとギターリスト。
今日もポストには、「プロジェクト30」の「しおり」が届く。大学の同級生は、結婚し苗字も変わってしまったが、紫色に力強く塗ってくれて、ノルウェーからは、緑を基調に優しくペンで着色されていた。
5月11日(月)
午前中、メールなどの雑務。続けてコンペの作業を進めていく。色々とアイディアを整理していく。今日も夏のような日差しであった。
夜、渋谷で打ち合わせを一本。深夜、描いているドローイングのためにも『写真論集成』(多木浩二、岩波現代文庫、2003)を本棚から見つけて拾い読み。ビル・エヴァンスのピアノと良くあって写真のことを色々と考える。やはり、ベッヒャー夫妻の写真について考えを整理するのには最良の文章であった。
今日は、OMAで働く友人と小学校時代にやっていた野球チームの監督から「プロジェクト30」の「しおり」が届く。小さな「しおり」だが、みんなの声らしきがその着色から
聞こえてきて嬉しい限り。累計42枚。
5月10日(日)
東京の都心を渋谷川に沿って地下街らしきに入って歩き回るという夢を見て起きる。まるで畠山直哉の『Underground』の世界であった。外は、早くも夏の様相。
午前中、メールなどの雑務。バウハウス大学を卒業し、今はドレスデン大学で建築を教えている友人のJがこの夏ルーマニアでワークショップを開催するとのことでお誘いのメールが来る。彼が早稲田大学に交換留学で来ていたとき以来、10年来の友人でドイツでも何度も会っているが、いつも新しいことに挑戦していて多くの刺激をもらう。
夕方、カメラ片手にブラブラ。ピンと来るものを今日はみつけられなかった。夜、『TOKYO!』(監督:ミシェル・ゴンドリー×レオス・カラックス×ポン・ジュノ、2008)を観る。三人の全く違った才能が東京を舞台につくったオムニバス映画。どれも一癖二癖あるものばかり。人間が椅子になるというゴンドリーの発想と映像には舌を巻く。何より驚いたのが、カラックスの映画に出てきた東京のマンホールの中の風景が今朝見た自分の夢に類似していたことに驚いた。
5月9日(土)
午前中、久しぶりの太陽に誘われて自転車に乗る。まずは、ミッドタウンにある「21_21」の「うつわ」展、最終日前日に滑り込む。3人の世代も性別も違う作家の「うつわ」を観る。素材に対する感性と作品に向き合う姿が美しいフォルムを生み出していた。映像で3人の製作風景が観られたのもすごく面白かった。しかし、やはりルーシー・リーの器は圧倒的に素晴らしかった。その繊細なカタチとわずかながら均整を歪ませてあり、見る角度によって表情を変えていく。更には、一つ一つ塗り分けられたボタンも芸術品であり、恐ろしく美しい。『日曜美術館』で知ったので、不勉強だが、もちろんテレビよりも圧倒的に実物の方が綺麗だった。欲を言えば、やはり実際に手で触れてみたかった。
美術館を出たら、今は名古屋で構造をやっている大学時代の同級生とばったり会い、彼は同じく大学時代の友人の結婚式にこれから行くというので、学部の卒業式以来7年ぶりにその友人にも会いたくなってグランドハイアットのチャペルに私服ながら出席。実に懐かしい面々との再会に加え、新郎が退場する際に僕を見つけたときの顔はテレビのどっきり番組のごとくであった。聞けば、そこにいた同級生のほとんどがもう結婚していたのにも驚いた。
それから青山の「ときの忘れもの」ギャラリーへ。昨年の池田20世紀美術館での展覧会ぶりの「小野隆生」展も本当に素晴らしかった。この距離で作品が観られるのはとても貴重で贅沢な体験。作品から放たれる無言のエネルギーらしきを強く感じた。オーナーの綿貫さんともお会いできて、銅版画の作品群を見てもらう。ピラネージのエッチングの線は交差しない緻密さによって描かれる究極的な技術であることを教えて頂いた。
続けて西麻布にあるギャラリー・イー・エムに行って「版画工房と作家たち」展のオープニングに行く。友人で彫刻家の谷山恭子さんの版画は二次元なのにとても三次元的で面白かった。ほかにも個性豊かな作品群が5人の作家さんによって展開されていて、直接作家さんご本人と色々と話すことができたのが大収穫。
気がついたら夜になっていて自転車で帰宅。何だか色んなことがあった一日だった。夜は、アルゲリッチのピアノを聴きながら、グルスキーのドローイングを進める。
ポストには、ベルリンに住む医者の友人から「プロジェクト30」の「しおり」が届いていた。これがまたアーティスティックに雑誌などの切り貼りコラージュで仕上げられていて、そのセンスに唸る。彼は、医者なのに建築に興味があるからと言ってザウアブルッフ・ハットンでインターンとして半年働いた異色の経歴を持つギリシャ人。このプロジェクトを通してなかなか会えない友人たちとのささやかなコミュニケーションを大いに楽しんでいる。現在40/130枚。
5月8日(金)
午前中、すぐにグルスキーのドローイングを進める。少しずつ新しい風景が立ち上がり、新鮮な発見があるのでこのまま進めてみたい。
午後、コンペのプレゼンを考えながら展開する。なかなか突破口がみつからないが、このまま続けてみよう。
夜、数日降り続けた雨も止み、綺麗な月が姿を現していた。東京のビル群の角々に点滅する赤色の光が暗い部屋の中の電化製品の放つ光に類似して見えた。何だかそうなると都市の風景も違ったスケールで視えてくる。深夜、『日本の難点』(宮台真司、幻冬舎新書、2009)を読み始める。氏の切れ味鋭い批評に線を沢山ひく。
今日は、弁護士になった高校時代の友人より「プロジェクト30」の「しおり」が届く。忙しい中、少年のような色使いで塗ってくれた。しかし、マーカー、蛍光ペン、色鉛筆、絵の具、マニキュア、貼り絵を実に多彩な表情を持ったこのドローイングについてあれこれ考える。
5月7日(木)
午前中、メールなどの雑務。連日の雨、どうも台風1号とのこと。午後、コンペの作業を集中的に進める。気分転換にグルスキーのドローイングを早速描き始める。ベッヒャー夫妻のドローイングとはまた違った線が立ち上がって面白い。
夜、『おくりびと』(監督:滝田洋二、2008)を観る。「死」を通して「生」を語っているように感じた。久石譲の音楽も良かったし、何よりシリアスなテーマを笑いでバランスとって心地よく見せていた。
深夜、チャンピオンズリーグの準決勝をテレビ観戦。テリー率いるチェルシーの鉄壁ディフェンスに対してアンリを欠いた上にレッドカードで数的不利のバルセロナがイニエスタの後半ロスタイムのゴールで劇的な勝利。これだからサッカーは面白すぎる。ワールドカップは、国の威信など背負うものが違うのでまた違った見方が出てくるが、純粋にサッカーだけを比べるとやはり多国籍軍で1年間一緒にプレーしているクラブチームでの戦いであるこのチャンピオンズリーグこそが最高峰ではないか。今月末のローマ決戦はロナウド対メッシ、マンチェスターの史上初の大会連覇なるか。
今日は、連休明けということもあって「プロジェクト30」の「しおり」が5通も届く。内3通は海外から。どれもこれがまた期待を超えて素晴らしい「しおり」たち。ベルリンの友人は、二児の母ということもあって、可愛らしいラメの入ったインクで仕上げてくれて、久しく会えていない大学の同級生からも質感のある面白い塗り方をしてくれた。クライアントの方からも色鉛筆で丹念に塗られた素敵な「しおり」が届いた。ついに上下6枚が連なった部分もあり、僕だけはすべてのピースが誰の手によるものかを知っているだけにこの複雑なモザイクを見ていて全く飽きない。30歳になってまだ1ヶ月も経っていないのにもう3割近くの返信にただただ驚いている。
5月6日(水)
昨日の北野映画のためか、えらく暴力的な夢を見て起きる。不快な気分で一日が始まる。外も連日の雨。午前中、打ち合わせを一本。午後、事務所でコンペ作業。その後、先週からやっているドローイングを完成させる。今回は、ベッヒャー夫妻の作品集にインスピレーションを得て描きあげた。早速次の作品について考えて、グルスキーの作品集に決定。
夕方、本を買いに五反田へ。それから品川に寄ってワルシャワに帰るチェンバロ奏者のGを見送りに行く。秋葉原でたくさん買い物をしたらしく笑顔でバスに乗り込んでいった。その後一緒に見送った雑誌編集者の友人とお茶。ショパン・コンクールの話から仕事のことなどについて話を聞く。テーマを決めてブレストで得た20のアイディアの内、どんどん磨いて変形していき、最終的に雑誌記事として完成するのは一つくらいとのこと。こうして異分野で活躍する同世代からはいつも刺激を受ける。
帰宅して、コンペと読書。一日中雲は晴れることなく東京の空を覆っていた。
5月5日(火)
午前中、デスクワーク。外は雨降り。昼からゆっくりドローイング。午後、コンペのプレゼンをあれこれと。
夜、DVDで『アキレスと亀』(監督:北野武、2008)を観る。画家とは何か、芸術とは何か。軸のぶれない芸術家を支える妻、幸子(樋口可南子)こそ最高の芸術家なのでは。しかし、なんとなく北野映画らしい切れ味がなかった気がした。逆に相変わらずのバイオレンスだった。
5月4日(月)
午前中はゆっくりし、昼から国際フォーラムへ。先日知り合ったポーランド人のGの招待でラ・フォル・ジュネ音楽祭に行く。ワルシャワから来たシンフォニー・ヴァルソヴィアによる、ブランデンブルグ協奏曲の1番、2番、3番を聴く。バロックな時間にしばし心を休める。Gは、優雅にチェンバロを弾いていた。終わったらみんなでお茶をして、東京観光のアドヴァイスをして別れる。
夜、小学校時代の友人と共に30歳を祝う。その後、恵比寿に移ってまた違った友人たちと合流。いつになくテンポ良く話が盛り上がり、歩いて帰る。帰宅したら、ポストにパリとルツアーンの友人から「プロジェクト30」の返信があった。これまたハイセンスに配色された「しおり」に深く感動する。パリの友人は、来年1月に30歳になるとのことで、同じことをしたいと手紙で書いてきた。「もちろん、やってください」とメールを打つ。喜んでもらえて何より。しかし、このプロジェクトのおかげでずっと誕生日気分なのも問題か。
5月3日(日)
午前中、メールなどの雑務。昼からコンペの仕事。外は、温かい春の風が心地よく吹いていた。何となく普段の日曜日と違って街が静けさに包まれた感じがしたのは多くの人がETCの1000円乗り放題もあって東京を離れたからだろうか。
夜、この春から大学と高校に入学した従兄弟と会う。えらく久しぶりに会ったので色々と話した。年齢が倍近いということもあってどこまで通じたか自信はないが、新しい生活が始まるだろうし無理しないで楽しみながら頑張ってほしい。韓国料理も美味であった。
深夜、アリシア・キースを聴きながらドローイングをゆっくりと進める。もう折り返し感じ。これは、シリーズにしてどんどん描き続けたいのでやってみよう。文章も書いて発表できるように動ける準備をしたい。思いついてからモノになるまで時間がかかるけど諦めない。
5月2日(土)
午前中、コンペのエスキース。昼、近所の本屋までお散歩。気になる本を2冊購入。午後もコンペと読書。
夜、友人の誕生会に顔を出す。ポーランド人のチェンバロ奏者と知り合い。美味しい沖縄料理を食べながら、いつもの愉快な仲間たちと盛り上がる。音楽家はとても明晰な思考回路をしているので、色んな話が飛び交う。
今日は、ときのわすれものギャラリーの綿貫さんから抽象絵画のように仕上げられた「プロジェクト30」の「しおり」とトロント時代の友人から新しいバランス感覚の着色にそれぞれの個性を感じる。しかし、本当に連日の返信にすごく喜んでいる。みなさん、本当に有難うございます。
5月1日(金)
午前中、コンペの新しいアイディアを進める。天気も良く調子よく作業もはかどる。昼、原宿駅でベルリンより一時帰国しているコントラバス弾きとピアニストの高橋夫妻と待ち合わせ。ベルリンでは演奏会からテニス、食事会まで幾度となくお世話になった二人にこうして東京にて三人で会うのは初めて。早速NIDショップまで歩いて案内し、キャット・ストリートを散策。天気も完全な散歩日和。まい泉でとんかつを頂いて、大坊珈琲で一服。久しぶりの再会で思い出話も含めて楽しい時間を過ごす。
夕方、帰宅して引き続きコンペ作業。ポストには又3通の「プロジェクト30」の「しおり」が届く。今日も嬉しい驚き。なんと叔父と叔母からは細かい紙を丁寧に貼り絵したものが届き、その密度と美しさは見事。きっとピンセットか何かを使ったのだろう、すごい。まるでスーラの点画のごとき。もう一人の友人は、光沢のあるマニキュア2種類でオシャレに仕上げてくれた。ロンドンにいる大学の後輩の石井君も丁寧な手紙と彼の好きな画家ターナーの絵葉書を同封してくれた。ビンゴじゃないけど、いよいよ3枚連続して繋がった「しおり」もあり、まだ返信は2割強なのにますます完成が楽しみになる。
深夜、グレン・グールドのベートーベンを聴きながらドローイング。読書して寝る。
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